私は反対ですが…【東京都「青少年健全育成条例改正案」】

何度か日記で書いていますが、私は規制反対の立場です。
表現の自由内心の自由を規制するなど明白な憲法違反であり、このような悪法(条例ですが)は拡大解釈されるのが常だからです。そしてその帰結は文化が滅びる方向へ向かうということだからです。


今回の条例の最大の問題点は、
非実在青少年」(マンガなどに出てくる青少年)への自主規制項目が
追加されたという点です。


第三章 不健全な図書類等の販売等の規制」の追加条文

「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの(以下「非実在青少年」という。)を相手方とする又は非実在青少年による性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの」


非実在青少年」という概念によって、実在者のいない、モデルの存在しない、創造されたマンガ、イラスト、アニメなどまで取り締まろうとされています。内心の自由は誰も侵害できないし(人のアタマの中(妄想)は誰にも分からない)、表現の自由も侵害されてはいけないというのが、先にも述べた私の立場です。


ただ、非実在のキャラクターが登場するゲーム(例えばエロゲー)があったとして、
規制反対を表明する人々に対しても述べたいことがあります。以下の点です。


■本当に「傷つく人がいない」のか?(≒不快感を抱く人はいないのか)
  ※傷つく人がいないからOKだ、という議論提起は、
   しかしこの主張は「傷つく人がいたら」そこで終わる主張でもあります。

■善悪や良心、健全といった倫理判断は困難を極めるとしても、
 (人によって考え方は異なりますから)
 人間の内心の自由表現の自由はどこまで可能なのか、
 こうした倫理は人類の知恵の発展の中でどう成熟してきたのか、
 そういった格好つけた(笑)議論があってもよかったのではないか、

非実在の児童をポルノとして単に消費するということを肯定したいならば、
 実在の児童がポルノとして消費(搾取)されてる現実に対しても声をあげるべきだ


ということです。


今後もこの規制反対運動を続けるとするならば、実際の創作者や消費者だけではなく、普通の(語弊がありますが)市民、政治家、法学者、倫理学者の協力を今以上に得ることが必要だと私は考えています。


以前からこの話題について私が考えていたのは、表現規制の問題というよりも、この問題は人間の妄想はどこまでが許容され得るのか、という倫理的な観点をも含めての観点からです。


しかし、規制反対派の人々の考え方に幅があり過ぎるように見えて、積極的に能動的に運動に加担したいという気分にならなかったというのも正直な気持ちでもあります。


表現規制反対派の中には、「人権擁護法案反対」とか「外国人参政権反対」とか、そういうことを騒いでいる有象無象どもと同様の手合いがウジャウジャいる「だけ」のような気がして仕方がなかったのです。


更にいえば、非実在の対象をポルノとした表現物があったとしても、単純に「趣味が悪い」としか思えない人がいるのも確かでしょう。そういう人も少なからずいるという現実にも思いをはせるべきではないか考えています。政治家に働きかけるだけではなく、普通の市民にも理解されうる規制反対運動が必要なのではないでしょうか?


例えば、サドの著作なんかは今は「芸術」として認められていますが、単なるポルノグラフィで、改めて読んでも文学としての価値はあまり高くない、ドストエフスキィの『悪霊』の中で当初削除されたとされる部分の方が恐ろしく卑猥で深い、バタイユの作品は悪趣味の極地だけれども、文学や思想としては非常に面白い、といった議論や勉強会が、規制反対派の人たちの間ではできていたのでしょうか?
チャタレー事件〜四畳半襖の下張事件〜サド裁判など、こういった「表現規制に関わる」歴史的な経緯を知っていたのでしょうか?

という疑問もありました。


すなわち、実在しない児童(少年少女)に関わる表現ならば、何もかもが許容される訳ではない、という意識はあって欲しかったと考えていたのです。


結局、ネット上では、自分の好むものだけは守りたいというような偏狭な議論が見られることが多かっただけのような気がします。自由であれば何もかもが表現可能なのか? という倫理的な観点も必要だったのではないでしょうか。


http://megalodon.jp/2010-0317-2140-35/news24.jp/articles/2010/03/17/07155505.html (魚拓)
都の漫画の性描写規制案 結論先送りの方向
日テレNEWS24 - 03月17日 16:34)
 東京都議会が審議している漫画のキャラクターの性描写に規制をかける条例改正案は、結論が先送りされる公算が大きくなった。
 東京都が提出した青少年健全育成条例改正案は、現在都議会で審議中だが、漫画のキャラクターにも性描写の規制をかけるという改正案の内容に「表現の自由を制限される」として漫画家らが反対する一方、都内の小学校のPTAからは賛成する声が上がっている。
 東京都は都議会最大会派の民主党に改正案の趣旨を説明して理解を求めているが、民主党は都民への周知や審議が不十分だとして、今議会中は採決を行わず、継続審議とする方針を固めた。共産党なども民主党に同調するとみられ、条例改正案の結論は先送りされる見通しとなった。


http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20100317-OYT8T00734.htm
表現規制、継続審議へ…都条例改正案
(読売新聞 - 03月17日 15:35)
 18歳未満の青少年の性行為を描写した漫画やアニメの販売・レンタル規制を拡大する東京都青少年健全育成条例の改正案について、都議会民主党は17日、「議論が不足している」として、開会中の都議会で採決せず、継続審議を求めることを決めた。
 共産党なども同調する見通しで、改正案は今回の都議会では成立が見送られる公算が大きくなった。改正案を巡っては漫画家の里中満智子さんらが「表現の自由が侵害される」などと反対を表明していた。


http://megalodon.jp/2010-0317-2142-57/www.itmedia.co.jp/news/articles/1003/15/news074.html (魚拓)
「文化が滅びる」――都条例「非実在青少年」にちばてつやさん、永井豪さんら危機感
ITmediaニュース - 03月16日 10:33)
 「改正案が通れば、文化の根を断つことになる」――アニメ・漫画に登場する18歳未満のキャラクターは「非実在青少年」だとして、性的描写などの内容によっては不健全図書に指定して青少年への販売を禁じる「東京都青少年の健全な育成に関する条例」(青少年育成条例)改正案に反対する漫画家などが 3月15 日、都議会民主党総務部会を訪ねて意見を伝え、都庁で会見を開いた。

 会見には、漫画家の里中満智子さんや永井豪さん、ちばてつやさん、竹宮惠子さんなどが参加。里中さんは「青少年を健全に育てたいという温かい気持ちから出た規制だろうが、表現規制は慎重に考えないと恐ろしい世の中になる」、ちばさんは「文化が興るときにはいろんな種類の花が咲き、地の底で根としてつながっている。根を絶つと文化が滅びる」などと強い懸念を示した。
 4人に加え、この問題についてmixi日記で指摘し、周知の火付け役となった漫画評論家藤本由香里さん、日本漫画学会長で評論家の呉智英さん、社会学者の宮台真司さん、明治大学准教授の森川嘉一郎さん、「松文館事件」で被告側弁護人を務めた弁護士の山口貴士さん、日本書籍出版協会の矢部敬一さんも会見に出席し、意見を述べた。
 改正案に反対する漫画家として、あだち充さんや藤子不二雄Aさん、高橋留美子さん、萩尾望都さん、安彦良和さんなど約60人のリストも配られたほか、講談社集英社小学館などコミック発行10社も反対を表明している。

●「ハレンチ学園」「風と樹の詩」も対象に?
 改正案の問題点として、(1)あいまいな規定でいくらでも恣意的に解釈でき、幅広い作品が対象になり得ること、(2)漫画などの表現に対する萎縮効果が高く、日本のコンテンツ産業に大きなマイナス影響を与える可能性があること、(3)審議期間が極端に短く、拙速に成立に向かっていること――などが指摘された。
 藤本さんは「都は、過激な性表現のある作品のみが対象と言っているようだが、条文を照らすとそれは事実ではない」と指摘。現行条例でも不健全図書の規定がある中、改正案では「非実在青少年」に関する規定を新設しており、青少年の性を肯定的に描いたさまざまな作品が対象となり得ると懸念する。
 永井豪さんは、40年前の「ハレンチ学園」発表当時、「めちゃくちゃに叩かれた」と振り返る。「当時も、青少年は異性への関心を持つのが健全な精神の育成だと思って描いていると説明した。異性に関心を持つことが罪悪と思って育つと、大人になった時の衝撃が強すぎる。成長段階に応じて少量ずつ与えていくことが重要」(永井さん)
 「わたしの作品『風と木の詩(うた)』は対象になるだろう。都は『対象ではない』と言うかもしれないが、自分自身は対象だと感じてしまった」 ――竹宮さんは漫画表現への萎縮効果を懸念する。「新しい性に関する知識を少年少女に与えなくては危ないと感じて描いた。純粋培養では少年少女は“健全” にならない。漫画はエネルギーを逃がす弁として存在するはず。ある程度強い刺激でないと、弁を開けない人もいる」(竹宮さん)
 里中さんは「表現がエロと感じるかそうでないかは見る人次第で、人はそれぞれ別個の感性を持っているのに、それを全体の意思のようにして網をかけるのはナンセンス」という。
 「文化や芸術はその時代の倫理や教育とかい離がある場合があるが、それを描くことも役割だ」――呉さんは文化論を展開。「例えば井原西鶴の『好色一代男』は、6歳の少年時代からの性の遍歴を描いている。1つの人間の姿を描いているのだから、単純に倫理の問題として裁断し、政治が介入するのは危険」(呉さん)

●「善意の規制」が闇を大きくする
 改正案が「子どもを健全に育てたい」という善意の発想から成り立っていることへの危険性の指摘もあった。「規制側は、目の前の正義感や倫理観で話すのだろうが、表面的な正義が見えないところで闇を大きくする。キャラクターまで対象にするのは、子どもの環境をあまりに狭く考えすぎている」と里中さんは懸念する。
 宮台さんは、「青少年の性行為を描いたコンテンツが青少年に悪影響を与えるという素朴な悪影響論は学問的には否定されている」とした上で、「誰と見るかなど、コンテンツの受容文脈をコントロールすることが最善」と指摘。「最善の策を取らずにいきなり次善の表現規制に飛び込むのは怠慢」と批判した。
 条例では18歳未満を青少年と規定しているが、日本では女性は16歳で結婚でき、「高校3年生の半分近くが性体験をしている」(宮台さん)という状況で、高校生の性行為を肯定的に描写した作品が対象になれば表現への萎縮効果は高い。「普通のことをしている人に対して、『お前達は悪いことをやっている』というメッセージを出すことになり、副作用は大きい」(宮台さん)
 山口弁護士は、「青少年性的視覚描写物」のまん延の防止を都の責務と規定した条文に絡み、「何を見て何を見てはいけないかについて、都が口を挟むのは非常に危険」と警鐘を鳴らした。

●日本のコンテンツ産業発展を阻害する
 「文化が興るときにはいろんな種類の花が咲き、地の底で根としてつながっている。根を絶つと文化が滅ぶ」(ちばさん)――関係者には、漫画やアニメなど日本の文化やコンテンツ産業の発展を阻害するという危機感も強い。
 「ハレンチ学園がなければ、その後の『マジンガーZ』もなく、各国に呼ばれて漫画やアニメについて講演することもなかった」と話す永井さんは、「自由な漫画の発想があったからこそ日本の漫画やアニメは発展し、世界に注目されてきた。表現規制を行った韓国は、漫画の発展が遅れた」という見方を示す。
 「規制側には、良い漫画と悪い漫画を区別できるという暗黙の前提があるようだが……」――森川さんはその考え方自体が間違っていると指摘。青少年の性行為を描いた漫画や同人誌を描いた漫画家が、「文化庁メディア芸術祭」で受賞するケースも多いなど、多様な表現を許容する環境が漫画家のすそ野を広げていると紹介し、「改正案が通った場合の副作用がほとんど検討されていない」と危惧した。
 「この条例を、『東京国際アニメフェア』を主催している都がやっているという意味は大きい」と藤本さんは指摘。会見やその後の集会では、享楽的な若者を描いた都知事の小説「太陽の季節」を皮肉る発言も複数の参加者からあった。

●異常なスピード
 改正案は2月24日に提出され、3月19日の都議会総務委で採決、3月末にも本会議で採決というスケジュールにも批判があった。「異常とも言えるほど短く、このような決め方は民主主義の原則に照らして大いに問題がある」(藤本さん)

●集会は約300人が詰めかけ立ち見も
 都議会会議室で開かれた集会には、会見の出席者に加え、漫画家のさそうあきらさんや齋藤なずなさん、都議の吉田康一郎民主党)さんや福士敬子さん(無所属)、前衆院議員の保坂展人さん(社民党)など政治家も参加。用意された100席に、メディア関係者や出版関係者、一般市民など約300人が詰めかけ、立ち見の参加者で会場が埋まった。集会の様子はUstreamやニコニコ放送でもライブ配信され、注目を集めた。
 改正案のベースとなった答申が出た段階から問題を感じていたという吉田都議は「児童の性的搾取を止めるためという手段の正当性の前に、方法論が議論されず、問題がなし崩しになっている。状況はまだ厳しいが、当たり前の妥当な結論が出よう頑張りたい」など話していた。【岡田有花